*† さくら †*

のどの奥がきゅんとなる。
そしてそれは
徐徐に痛みへと変わる―――

痛い・・・いたいよ・・・

ひゅうひゅうと息をしながら
涙が出るのを必死で待つ

もがけばもがくほど
痛みは増してゆく


これが
“さみしい”
という感情であることは
わたしはとっくの昔に識っていた



・・・幼い頃。
あなたがわたしの名前を呼び
抱き締めてくれた

初春に生まれたわたしに
あなたはよくこう言った。

「優しい心を持ちなさい」
「涙を流しなさい」
「そして」
「愛し愛されなさい」

わたしの名前を呼び
あなたはわたしに
“さみしさ”
という感情を与えたの。



お気に入りのリップクリームを塗って
チークをつけて
わたしは公園へ出掛ける。

そこには
大きな桜の樹がある。

今は4月のはじめ。
桜は満開。

小さな公園には
いつも誰もいない。

この桜の樹には
忘れてしまった
忘れようとした
記憶が刻まれている

そっと
しなだれた枝に咲く花を撫でる

・・・周りに誰もいないことを確かめると
ベンチの上に立ち
幹に対して細くて弱々しい枝を
折り取った

分離させられた花は
なにも識らずに
息をしていた



部屋の花瓶に挿すと
わたしは思い出したように
大量の睡眠薬を取り出し
それを何時間もかけて細かく砕き
器用に半分に分けた

「わたしと競争しよう。」

どっちが早く目覚めるかな?

冷蔵庫からヨーグルトを持ってくると
半分を入れて掻き混ぜた。
もう半分を、花瓶に。

「どっちが先に・・・」



ある日の午後
わたしは目覚めた。

貴方がくれた
さくら色のマニキュアを塗ってみた。
これを貴方がくれたのが去年の春。
その時に春の新色だったさくら色は
今では定番。

古いマニキュアは
なかなか乾かずに
わたしは暇を持て余す

「・・・。」
花瓶に挿した桜の花は
枯れていた



わたしは
公園へと歩いていった
なんの意味があるのかなんてわからない
乾かないマニキュアなんて気にせず
桜の樹の前に辿り着いた

花びらが降る中で
わたしは立ち尽くした
そのとき
わたしはやっと
息を吹き返すように
涙を流した

樹の前に跪き
祈るように目を閉じた


どうして
こんなにもかわいくて
美しい色を残して
桜は散ってしまうの?



花びらの降る下で
わたしは祈り続けた。

ふと気が付くと
祈りを捧げた両手には
乾ききらないさくら色のマニキュアが
散って逝く花びらのように
こびりついていた。
わたしの叶わない祈りが
また
散っていった



声を上げながら
子供に戻ったように泣きじゃくり
わたしはまた
あなたと貴方を求めた。